「ピアニスト・辻井伸行 自作曲に挑む」を見る

 NHKで「旋律よ 殿堂に響けピアニスト・辻井伸行 自作曲に挑む」
を見た。辻井さんは2009年、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンク
ールで優勝し一躍、有名になったピアニストだ。視覚障害を持つが、
まったくそれをハンデとしないような、全身から音楽がわきでてくる
ようなピアニストだった。DVDが発売され、あらゆる場所でのコンサー
トはチケットが売り切れ、本は出るし、映画「はやぶさ」の音楽も担当
するし、メディアにやたら出るし、恵まれたピアニスト人生を歩んで
いると思っていた。
 しかし、今回の番組は、辻井さんが「作曲」という高い壁の前で挫折
し乗り越えたところに着目していた。きっかけは作曲家加古隆の指導だ
った。辻井さんはこれまでインスピレーションであふれるように出てく
る音で作曲してきたが、加古氏はそれをストップさせた。音を吟味し、
和音ではなくメロディで勝負せよと伝えたのだ。加古氏の助言はとても
印象深く、音楽だけでなくあらゆることに当てはまるような気がした。
すらすらうまくいくことは、ステレオタイプに陥りやすい。苦労して吟
味して作っていかないと新たな発見も前進もないのだと思う。

 その指導後、辻井さんは作曲に苦しむことになる。これがいわゆる
挫折だ。
 彼の直面した困難のひとつは、映画音楽の作曲時における監督のイメ
ージを音楽にすることだった。監督の求める強さや深みをどう表現するか。
 もう一つの困難はカーネギーホールで発表する自作曲の作曲だった。
アメリカ人になじみのある「金髪のジェニー」をもとにどう自分らしさを
表現するかに苦しんだ。
 前者は、自分自身の葛藤の経験を生かし、後者は震災でピアノを失った
少女への思いをもとに、作曲に挑んだ。その具体的な過程は画面には映し
だされなかったが、それぞれタイムリミットまでに辻井さんは完成させて
いた。やはりこういうところがプロなのだろう。

 それにしてもカーネギーホールでの辻井さんの緊張と終わったときの
解放感は、半端でなかった。あそこまで素直に表現できることも彼の個性
なのだと思う。
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by nokogirisou | 2011-12-30 22:23 | 音楽
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