子どもの読書活動を考える国際シンポジウム

 1月13日東京大学伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホールにて
開催された、「子どもの読書活動を考える国際シンポジウムー
子どもたちの本読み事情:アジア各国の今とこれから」に参加した。
 ラトガース大学図書館情報学部名誉教授のクルトー先生の基調講演
は、興味深いものであった。
 彼女のすばらしいところは、生徒が情報検索し学ぶ過程(探究的な
学びのプロセス)を長年つぶさに研究し続けたところだ。誰にとって
も、得た情報から、意味を読み取り、アイデアを進化させまとめる過
程が一番難しいという。明確な論点を形成するのは一連のプロセスの
中の半ばであることを何度も強調されていた。
 また今回の彼女の発言の中で、とても印象に残っているのは、「情
報を得るための読書」と「楽しみのための読書」を分ける必要はない
ということだった。
 私はこれまで、子どもの物語を楽しむ読書と、中高生になってから
の自分を高める読書、探究のための読書、大人になってからの仕事の
ための読書は違うもので、それぞれに違ったスキルが必要で、区別す
べきものなのかと考えてきた。しかしそうではないという力強い発言
に、とても嬉しくなった。
 「本を読む」という行動に上下も区別もなく、すべて根っこは同じ
で価値があるという。「役に立つ読書」と「楽しみのための読書」を
分けなくてよいうという考えは、私の抱えるストレスを半減させた。
 
 
 続いて、チアン・インミーさんによるシンガポールの読書推進活動
が紹介を伺ったがそのパワフルさに圧倒される。シンガポールでは
とにかく読書は功利的な目的によって推奨され、促進されている。シ
ョッピングモールの中に図書館があり、市民は積極的に読書をするそ
うだ。面白い試みは、読書をあまり積極的にしない男の子やお父さん
に対する取り組みだ。「父親1万人のもっと読み聞かせ」や「クエスト」
とよばれる貸出とカードの交換ゲームのようなことがさかんに行われ
ている。また赤ちゃんがおなかにいるときから、ブックスタートは始ま
っており、赤ちゃんから高齢者まで図書館の利用者登録をしている。
その結果図書館の利用者や読書人はとても多くて、シンガポール
は読書社会だ。本や図書館を魅力的に感じさせる政策も徹底している。
PISAの成績が高いのも頷ける。

 次は韓国のクオン・ユンギョンさんによる韓国の学生の読書事情と
政府の読書増進政策についての報告があった。こちらもまた、楽しみの
ためというよりも、成績を上げるため、知識情報を得、教養を身につけ
るために読書している若者が多いということだった。これは韓国の教育
熱の高さにも影響を受けている。おもしろかったのは、PISA2009の調査
で小説類の読書をしている生徒の成績が高く(特に男子)、オンライン
(インターネット)も読書もを適度に行っている生徒の成績が高いという
分析結果だった。
 韓国のもう一つの大きな特徴は、大学入試制度に表れている。最近は
大学入試制度が読書と論述を重要視する方向に変わったそうだ。かつては
受験勉強に読書は忌避されていたそうだが、2007年に読書活動記録簿
を内申書に記録し、大学入試の選考資料にする案が発表され、読書認証制
という制度が導入されている。それに伴って、読書指導の塾まで登場し、
読書は重要な事業アイテムになっているそうだ。

 シンガポール、韓国共に困っている点は、学校図書館に必要な学校図書
館指導員、専任の司書、司書教諭がいないことだ。これは日本とも共通す
る。現在学校司書の制度化が進められているが、特にに日本の場合、子ども
たちが読書を積極的に行っていくためにも、探究学習を進めていくために
も急務だと考える。

 その後に東大の秋田喜代美先生の「日本における青少年の読書と人材育成」
の発表があった。
 2000年から子どもたちをとりまく読書環境の整備が推進されてきたが中高
生に対する読書推進がまだ不足しているという問題点が提示された。
 まずは15才で趣味の読書をしない者の比率が国際的に高いこと、次に、自
治体間で読書推進に関する地域差が大きいこと、またその中でも学校間差が
あることが指摘された。
 このたび秋田先生は「青少年読書調査」を実施し、中高生が本を読まない
理由として「普段から本を読まないから」「読みたい本がなかったから」を
多く挙げていたことに注目した。中高生に読書の習慣がないこと、学校図書館
から本を借りていない生徒が多数いることは、なんとか改善していかねばなら
ないと思う。生徒たちに読書習慣をつけ、魅力的な学校図書館を作っていくこ
とが急務だと感じた。
 また今回の調査から明らかになったのは、生徒の認知した学校の読書推進の
積極性が読書冊数や学校図書館利用、読書への好感度、多様な読書の姿勢に
影響を与えているということだった。生徒の目に見えるかたちで読書推進を
行っていかねばならない。
 さらに興味深い結果は、たくさん読書をしている生徒ほど自尊感情や共生感
将来展望が高いということがわかった点だ。これについては、読書だけが自尊
感情や社会性に影響を与えているとは断言できないが、健全な青少年育成機能
の可能性を有しているといえるそうだ。
 この後も熱いフロアとの交流が多数あり、本当に充実したシンポジウムだった。
 
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by nokogirisou | 2013-01-14 14:03 | 本と図書館
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