宮崎駿監督『風立ちぬ』

  ほとんど予備知識なく、標記の作品を見た。
知っていたのは、主人公の声を庵野秀明が担当すること、
主題歌が荒井由美の「ひこうき雲」だということくらいだろうか。
それがよかったのかもしれない。
 同じくこの映画を観た友人は、『風立ちぬ』と実在の堀越二郎
の物語を無理やりくっつけた感じがしたと言っていたが、私は
「無理やり」感を感じなかった。

 終わった瞬間に、理由のわからない涙がこぼれて、館内が
明るくなるのが恥ずかしかった。
 私がこの映画で強く感じたのは、「時代」だ。大正の終わりから
昭和にかけての、どうにもならない時代。外国に追いつこうと
右上がりを目指す勢いと、一方で貧困や格差がはびこる世の中。
だからこそ、純粋なものも多数存在した時代。そこにしだいに戦争
の色も入り込んでくる。今の自由で、勝手で、ある意味便利で
能天気今とは、違う、息苦しさを感じた。
 
 この映画のキーワードは「夢」だと思った。繰り返し夢が出てくる。
二郎はよく夢を見る。
 そして、夢がこの物語を推進する。この作品は10年をひとつの
単位として動いているので、時間の流れが速く感じられる。その
不可解さを夢が上手に解消してくれている。
そうしてもう一つの意味の「夢」
「飛行機は戦争の道具でも商売の手立てでもないのだ。飛行機は
美しい夢だ。」

 もう一つ気になったこと。この作品では「たばこ」だ。たばこが重要
な役割を果たすということだ。
ちょっと昔の映画には本当にたばこがよく出てきた。主人公が集中
する時たばこを必要とするし、人と人をつなぐとき小道具にもなる。
たばこが、許され、信頼されている、そういう時代だったのだ。
 
 二郎という人物を眺めながら、私は『舟を編む』の馬締を思い出した。
ひたすらに飛行機の設計に打ち込む姿と、一方で純粋に恋をし
妻を愛する姿。
「力を尽くして生きろ、持ち時間は10年だ」という二郎の夢の中に出て
くる飛行機製作者カプローニの言葉にも私は敏感に反応してしまう。
 何かを成し遂げるには10年はあまりに短い。けれどもその10年を
必至に力を尽くして生きなければ、何も変わらないのだ。
 そして、その10年がどんなものであっても、まだ生き続けなければ
ならない。

 感傷的になりすぎだよ、この映画に…という人もいた。
でもやはり、私はこの映画に泣けてしまうのだ。 
 
[PR]
by nokogirisou | 2013-08-13 21:16 | 映画
<< 秋田喜代美先生の記念講演「子ど... 学校図書館問題研究会島根大会参加 >>