塔和子の死

 8月28日に急性心不全で塔和子さんが亡くなった。83歳だった。
私は新聞でその死を知った。ハンセン氏病、晩年はパーキンソン氏
病で長らく不自由な苦しい生活を送っていた。最期に彼女はどんな
言葉を残したかったのだろう。そんなことを考える。

 塔和子とはその詩を通して、そしてその詩を歌う、沢知恵を通して
出会った。
「かかわらなければ」。

塔和子は「詩は生きることそのもの」と言っていた。
沢知恵は歌うことが生きることそのもののような人だ。
 
 私は塔の詩の中で特に「書くこと」という詩が好きだ。

        書くこと
  絞り出されたレモンの知るが
  器の中へ溜っていくように
一枚の紙片の上に
  私の中から絞り出された言葉が書き留められてゆく
  書き留められた生々しい言葉の乱雑さを整理するともう私の中には
  イミテーションの耳飾を付けるほどの気力もない
  なんて残酷なんだ書くってこと
  レモンの絞り滓のようにからっぽになった頭を支えて寝転んでいると
  からっぽの不安の中から
  はやくももの白いレモンの花のように
  もうひとつの意味がそだっている
  絞り出されるための実を結ぶレモンの
  匂ほやかに位置しはじめる
  もうひとつの意味のいぢらしさ
  私はそれが熟するまで
  長い時間を待たなければならない
  この残酷なもうひとつの新しい作業が為しとげられるために
  ああなんてさみしいんだ
  レモンの匂い
  私の中のレモン
  際限もなく意味育ってゆくレモンの
  なんていぢらしいんだ
  書くってこと


  レモンの比喩のみずみずしさ、甘酸っぱさにほれぼれする。
 
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by nokogirisou | 2013-08-29 21:49 | 日々のいろいろ
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