『玉、砕ける』開高健

 人を待っている間に読む短篇集がほしいなと思っていたら
文春文庫創刊30周年企画で『心に残る物語 日本文学秀作編』
というシリーズが出ていた。 
 宮本輝が選んだ日本の名作16篇を集めた「魂がふるえるとき」
を何気なく手にとった。
 その一番最初の作品が開高健の「玉、砕ける」であった。「出国の
ときには純白の原稿用紙をまえにしたような不安の新鮮な輝きがあり、
朦朧がいきいきと閃きつつ漂っているのだが、帰国となると、点を一つ
うって、行を一つ改めるだけのことで、そのさきにあるのはやはり朦朧
だけど、不安も閃きもない」という、長い一文がとても好きになった。
私はほとんど外国に行ったことはないけれども、この感覚はとてもリア
ルに想像することができた。
 ところで、この玉というのは、垢の玉である。「私」が香港によるたびに
会う知人、張がすすめてくれた「天上澡堂」という風呂やで、ごしごし垢を
こすってもらい、それを集めて作ったものだ。それだけの垢をはぎ取られ
ると、全身の皮膚が赤ん坊のように柔らかく澄明で新鮮になった気持ち
にんるのだそうだ。
 この小説の見事さは、この玉をとても象徴的な小道具にしているところ。
そして香港の雰囲気、張というなぞの知人の存在感をわずか15ページの
中に描いているところ。
 やはりこれはさすがである。おもしろい短篇だと思った。
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by nokogirisou | 2005-04-27 04:32 | 本と図書館
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