『由香里の死そして愛ー積木くずし終章』穂積隆信著


 一気に読んだ。あまりに激しい内容だった。まるでジェットコースターに
乗っているかのような波瀾万丈の人生。第3章に「人生回数券説」がでて
くるが、それが妙に説得力あるように読めた。

 「人間は生まれながらに回数券を神様からいただいて、人生の節目節目
でつかいながら階段を上がっていくのだそうだ。その回数券を一気につかっ
てかけ上がる人がいる。天才は夭折するというのがいい例だ。慎重につかっ
てゆっくり登っていく大器晩成型のもいる。(中略)私だが、人生の序盤は割
に慎重だったが、『積木くずし』で派手に遣い、今は残り少ない回数券を惜しみ
ながら生きている。」
 
 著者は一人娘の由香里さんの非行とそれに立ち向かった親の記録を24年
前に『積木くずし』という本にして出版した。このときの華々しさは私の記憶に
も鮮明に残っている。しかし、この300万部も売った本を書いたことが本当の
「積木くずし」の始まりだったという。
 
 人生とは、本当に最期の最期までわからない。
 自分が今抱えている、悩みや憎しみをどう克服していくか、ヒントをくれる本
 である。
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 第1章は、まざまざと『積木くずし』の世界を再現している。非行少女と
 それに右往左往し、苦しむ両親。そして警視庁の少年相談室の心理
鑑別技師の竹江孝さんの指導を受けることになる。竹江さんの指示する
基本姿勢は
 1 子どもに意見を言わないこと
 2 叱らないこと
 3 愛を持って接すること
 4 子どもの心をよみとること
 だという。指示内容はとても具体的だが、親としてはその実行はとても困
難であったろうと想像される。
竹江さんの信念は「自分でやめようと思わなければやめられない」ということ
だ。これはすべての場面に通用する真実だと思う。何かを始めるのも辞める
のも変化を起こすのは、本人の意思しかない。
 それでもものごとはそう簡単に変化しない。
 由香里さんが、ほんとうに普通の平凡な生活に戻るのにそこから20年の
時間が必要だった。けれども、人は、やはり「よく生きたい」という願望を持っ
ているのだと思う。彼女を立ち直らせたのは彼女の中の「明日を生き抜く生
命に力」であろう。
 第2章は衝撃の告白である。いっしょに闘ってきたはずの妻美千子さんの
悲劇の一生を描く。その不幸の始まりは長崎での被爆である。彼女の人生
は、それだけで小説になりそうな波乱万丈なものであった。
 自分を裏切った不幸なこの女性を、著者は長年恨み続けてきたが、今では
彼女を許し、彼女の純粋さを引き出せなかった自分を責めている。
 第3章では、『積木くずし』から20年たってようやく訪れた幸福が描かれてい
る。由香里さんが著者のもとにもどってきて、平凡な平和な生活を送るのだ。
著者は、よき理解者と再婚し、3人で和やかな生活だ。
 そのピリオドは、由香里さんの多臓器不全の死によってうたれる。彼女は
被爆者の母から受け継いだうまれつきの臓器の弱さに加えて、拒食症を患
っていた。それによる栄養失調が死の直接的な原因らしい。
 これでもか、これでもかと襲ってくる不幸を、著者がどのように受け入れて
生き続けるか。それがテーマである。不幸を嘆いたり、投げ出したりせずに
贖罪の思いと謙虚さを持って生き抜く。その覚悟で書いたのがこの本だという。
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by nokogirisou | 2005-11-03 04:47 | 本と図書館
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