妖蝶記から「月ぞ悪魔」 

 作者の香山滋については、全く知らなかった。今もわかるのは1905年
に東京生まれで、1975年に亡くなったということだけだ。こんな風に名前
の知らない、けれども不思議な作品を残した作家が世の中にはたくさん
いるのだと思うと鳥肌たってくる。
 2つの太陽が出てくるシーンは、映画で見たことがあるが、ここでは2つ
の月が昇る。現在ではあまりちまたに出回っていない作品なので、あらすじを
少し書くことをお許しいただきたい。
 この不思議な物語の語り手は「国際秘密見世物会協会の総元締 浅倉泰蔵。
彼は短歌雑誌の百号記念祝賀会で「私」のつくった「月ふたつ空にかかれり
今宵われ酔いしれりとは思われなくに」という歌に反応して、「私」にとても不思議
な話をする。それは「悲恋の異常型」であった。
 



 浅倉泰蔵氏は、欧亜10カ国を股にかけてスケールの大きい見世物で荒稼ぎ
をしていたが、ある映画の失敗でコンスタンチノープルに遁走した。そこは都
そのものが猟奇の見世物であり、氏は活躍の機会なく、どん底の貧困生活を余
儀なくされた。
 月が二つ出た晩にある老婆が飢餓状態の浅倉氏のところにパンと酒をタバコを
持ってやってくる。その贈り物の代わりに女をあずかってほしいという。次にまた月
が二つ出る晩まで。 
 朝倉氏があずかったのは美しいスーザというペルシャ女性で、浅倉氏の身の回り
の世話からすばらしい腹話術をして、その芸でお金儲けまでさせてくれた。浅倉氏
が彼女に恋心を懐くのは当然のことだった。しかし彼女は「旦那様を愛している」と
いうが、事情があって愛を受けられないという。そしていつも浅倉氏の手からすり抜
けていく。
 ところが、ある晩とうとう浅倉氏は半ば強引に半ばスーザの決心もあって結ばれる。
しかしそのとき、彼女の身体のどこかで押しつぶされうめき声が聞こえる。なんとそれ
は、例の老婆によって彼女の腹面に移植された許嫁オーマーだった。彼女と許嫁は
奇妙な合体を強いられていたのだった。
 二人は結ばれたが、それは二人の別れの始まりであった。スーザに残された時間
はわずかだったのである。ちょうどその頃、イタリアのヴェスヴィオス山の爆発でコン
スタンチノープルには灰が降っていた。そのサンドフォールを見世物に、ツェッペリン
飛行船が飛ばされたいた。二人はスーザの気分転換にその船に乗り込むのだが、
それがスーザの死の旅立ちとなってしまう。後には愛と不思議にあふれたスーザの
遺書が残されていたのだった。

 
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by nokogirisou | 2005-11-09 05:44 | 本と図書館
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