「その日の前に」重松清

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 想像していたような、涙はなかった。人の死をみつめた
短編連作集。たんたんと日常はすぎていき、淡々と人は
死んでいく。日常をみまもる重松の目はとても静かだ。
あまりどろどろしないところ、残された者が送らねばならな
い連続する日常の描き方などよかった。
けれども不満もある。和美の存在感が私にはとても軽く感
じられてしまうのである。

死の間際に、弱っていく自分の姿を見せたくないからと、子
どもを病院に寄せ付けない和美の気持ちは私とは違うと思った。
私はぎりぎりまで、愛する者に接してたい…と今は想像する。
たとえ醜くても、ありのままの自分を見てもらいたいと思う。
死に対して和美がどう考えていたのか、自分のそれまでの
人生についてどう考えていたのか、それは今いちわからない。

死の直前に夫にあてた手紙にはただひとこと
「忘れていいよ」
とあった。私にはこの感覚に違和感を懐いた。これならまだ
「エヴァンゲリオン」でシンジを残して未来を見ながら死んで
いったユイの心境の方が信じられると思った。
「忘れる」「忘れない」は残された者に任された自由であり選択だ。
「忘れていいよ」の背後には「私を忘れないでね」というメッセージ
が強烈に見えてしまう。
 
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by nokogirisou | 2005-11-22 10:40 | 本と図書館
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