『神童』さそうあきら 双葉文庫

 「この漫画は『音』が主人公の作品です」このさそうあきらの
言葉に惹かれて読んだ。ピアノが出てくる漫画には目がない。
各章すべて「○○のうた」となっていて、それがとてもぴったりくる。

「まず先に『音ありき』 そんな出会いもあるのです」

 成瀬うたは、今は亡き名指揮者を父に持つ、野球が大好きな小学生。
彼女はすべてが音楽に聞こえる。そして彼女自身が音楽として響く。
自分に何も恐れがない。自然に生きて、自然に音楽に生きる。野球をや
っていたうたは偶然に音大めざして浪人中の和音と出会う。
 成瀬うたと菊名和音。私はこの2人の音でつながる関係がとても
よかった。気がつくと、私は人と人との関係ばかり読んでいる。
「うた」の音を和音がどううけとっているか。和音の音を「うた」にどう
響いているか。そればかり気になって読んでいた。うたは神童なのでどん
なハプニングも悩まず、すべて受け入れていくが、3巻で急転直下。
 セミの音が彼女にとりつく。その伏線はよく読むとちゃんとあるのだが
彼女はメニエル氏病だった。音を失ってしまう。呆然とするがうたは嘆かない。
そこがうたの他の人間たちの違うところである。彼女はその前もその後も少し
も自分の運命を嘆いたりしない。
再生の道を進む。そこにあるのは、彼女を愛する人たちの心である。やっぱり
「心」なんだと思う。それを受け取る力をうたは持っている。
 巻末に「さそうあきら選曲神童BGM」があるのも、魅力。
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by nokogirisou | 2006-10-10 05:22 | 本と図書館
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