『丘の家、夢の家族』キット・ピアソン著 徳間書店

a0023152_10101822.jpg

 このごろ外国の物語に惹かれる。
これはカナダの物語。カナダとは開かれた幸福な土地なのだと勝手に
イメージしていたが、現実は厳しいことを知る。ヴィクトリアとバンクーバー
を地図で確認しながら読む。
 25歳という若い母親のリーと9歳の少女シーオは、貧しい生活を送って
いる。シーオは学校ではなかなかなじめない。けれども図書館で本を借りて
読むことと、一人空想の世界に入りこむことが幸せな時間だった。シーオは
母親を憎んではいないが、諦めている。シーオは路上で踊って施しをもらう
ような悲しい仕事も課せられている。けれども決して、その惨めさや哀しみを
他人に言おうとしない。ネグレクトを受けている子どもの典型だ。
 そのうちにリーは新しいボーイフレンドのキャルに熱中し、一緒に住むことに
なってしまう。シーオは厄介払いされ、リーの姉シャロンに預けられることに
なった。自分の存在は邪魔なのだろうかと、シーオは絶望的な気持ちになる。
そのシャロンの家に向かうフェリーの中で、シーオは夢見ていたような仲のいい
四人のきょうだいにであった。四人と遊びながら、シーオは新月にむかって願う。
「この家族の一人になりたい」と。




 ふと気づくと、シーオは四人のきょうだいの家にいるではないか。。母親のローラ
が、「今日からあなたもこの家の子よ」と優しく言う。夢見ていたとおりのすばらしい
暮らしが始まる。まるでお菓子の家のようなふわふわした生活だ。
 まさかこんなことが有るまいと読者は思う。そんなに世の中はうまくいかない。
けれども翌朝目覚めてもまだシーオは四人きょうだいの幸せな家にいた。夢では
ないのだ。シーオはこうして家族の一員としてこの家で幸せな生活を送るように
なっていく。

ところがしだいしだいに、家族たちはシーオの存在を忘れるようになっていった。
それがシーオにとって何よりも悲しいことだった。ところが今度こそ、本当に夢
から覚めた。彼女はフェリーの上にいた。
  シーオはシャロンと二人のの生活に次第に慣れていった。不満ではないが
理想の生活ではない。ある日、こっそりヴィクトリアの町を探検しているとなんと
自分が夢の中で生活した四人家族の家があった。そしてなつかしい家族がそこ
にいた。ところがその家族と親しくなって、懐かしいみんなに会ってみると夢の中
のようにみんなは機嫌がよくない。仲違いもする。理想的ではなかった。
 その彼女が、夢と現実を受け入れ、自信を持って生きていくためにはある幽霊
の存在が必要だった。幽霊と書いてしまうと一気に現実感がなくなってしまうのだ
がその幽霊セシリーの存在は大きい。セシリーが見えるのはシーオだけだ。セシリー
はその四人きょうだいの家族が住む家のずっと昔の住人だった。そして書きたい
作品を書ききれずに病気で死んでしまった作家だった。
 やがて、みんなそれぞれがそれぞれの現実をうけいれて生活を始めようとする
ところで物語は終わる。希望が見えるかたちで終わるのでほっとする。 

 ファンタジーと現実とうまく混じり合った作品だった。けっこう夢中になって一気に
読んだ。セシリーがシーオに向かって語る言葉がけっこう重い。
 

 
[PR]
by nokogirisou | 2007-09-05 09:40 | 本と図書館
<< 『青い光が見えたから』講談社 ... この世でこわいもの… >>