『大人になるヒント』中沢けい(メディアパル)


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 想像していた以上に中身の濃い本で、一気に読めた。
 中学生向きの本のようだが、ちょっと中学生にはむずかしいかも
しれない。読者を中学生に限定することはないだろう。すでに年だ
けは大人になっている私自身にとっても読み応えがあり、切実に読
むことができた。この本にあるように「中学の頃から変わっていない
ことってけっこうある」ものだ。高校生や大人が中学時代のことを思
い起こしながら読むと、この本の中の言葉の重みや厚みを実感できる
のではないか。
 目次を見るとおもしろい。「SHR」からはじまり1時間目から
5時間目まで大きなテーマにそって語られ、「SHR」でおわっている
という体裁をとっている。
 各時間の終わりに、具体的な「おまじない」がついているのもおもし
ろい。こういう工夫は読者にとってありがたい生きる知恵になると思う。
 章立てはあるが、くりかえし同じテーマや話題が出てくることもあり、
読み進めながら、直接著者の中沢けいと対話をしているような錯覚に陥
る。中沢けいは本の中で自身のことを無防備なくらいストレートに語っ
り、親近感を覚える。
 この本には、生き方、大人になること、人生について書かれているの
だが、見落とせないのは本との出会い方、本の読み方が随所にでてくる
ことだ。
「ことばを知らないと見えないものがある」「人に寄り添う」「『人のた
めに』ということ」「ほんとうのことを知るために」等の章で、彼女独特
の文学論や読書論が展開されていてとても興味深く読んだ。
 この本のもう一つのテーマは「世代」だろう。中沢けいの親の世代の価
値観、中沢自身の世代の価値観や育ち方、そして現代の若者の価値観や育
ち方の変遷や流れがとてもわかりやすく書かれていて、とても納得がいく。
 ただ協力者の中沢ゼミの学生さんたちによる、「学生が語る」の座談会
のコーナーは不要のように感じた。各時間の扉のページに書かれている学
生さんの言葉や中沢けいの引用する学生の言葉で十分伝わってくるように
思った。

 実は私は、高校時代から大学時代に中沢けいの小説をかなり集中的に
読んだことがある。だから彼女のエピソードにはおなじみのものがあり
彼女の古風でベタな感じ方がこの本の中でまだ健在でとてもうれしく思
ったりもした。
 彼女がこの本の中であえて持ち出している「尊敬」「魂」「名誉」「プ
ライド」「美」などという古めかしい言葉も、彼女を通すと、ちょっと
新しい輝きをもって見えてくる。もちろん、彼女が子どもを育て、本を何
冊も出し、人生経験を積んできたからこそ、一言一言が、より洗練され、

味わい深くなり、重みをもってくるのだろう。忘れていたことを一つ一つ
思い出し、共感を覚えながら読み進めることができた。
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by nokogirisou | 2008-10-23 22:38 | 本と図書館
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