『冷静と情熱のあいだ』江國香織・辻仁成著

 
a0023152_2350336.jpg

 どうして今までこの本を読まなかったのだろう。
もう出版されて9年も経っていた。江國と辻が、『右岸』と『左岸』という
本を出すことを知り、そう言えばと思い出して、この本を読むことにした。
 今、こうして読むことができたのは、幸運だったか、運命だったか…。
フィレンツェのドゥオーモを登ってきたからこそ、そしてフィレンツェの青空
を見てきたからこそ、この小説の魅力がより鮮烈に感じられるのかもしれ
ない。
 職場の同僚が「赤から読むといい」と教えてくれたので、江國の「Rosso」
から読み始めた。江國は「あおい」の立場から書く。あおいはアメリカ人の
マーヴに愛されながら、ミラノで暮らしている。ミラノは新しいものと古いもの
が混在する街だ。あおいは、ひたすらマーヴに愛されながら、それを受け入れ
ながら、自分の心に空虚感があることを認めている。彼女は本とお風呂に逃げ
込む。ある日古い友人の崇と再会することで、そして、大学時代に深く愛し合い
つつも別れたかつての恋人、阿形順正から手紙がきたことで、彼女の運命が
ふたたび動きはじめる。あおいはようやく自分に正直になるというのだろうか。
静謐な時間が急に動的になり、あおいも積極的になっていく。あおいはマーヴの
アパートが自分の居場所でないことに気付き荷物もまとめる。
 あおいは、順正と2000年の30歳の自分の誕生日にフィレンツェのクーポラで
会う約束を覚えていた。そして、順正もまたそれを覚えていた。
 2人は運命的な再会を果たすことになる。
 「Rosso」では、劇的な再会を果たしながらも、それぞれが孤独な本音を言え
ずにそれぞれの生活に戻ろうとするところで終わっている。
 辻仁成の「Blu」では、順正の側から彼の生活が描かれる。彼の方があおいより
もアクティブである。絵画の修復の仕事をしながら、芽実という美しい恋人もいる。
芽実に甘えられながら、自分の人生をかみしめながら、やはり彼もまたあおいの
ことを忘れられないでいる。そもそも2人の別れが、自分の未熟さ故であったこと
を彼はすでに自覚している。どうしようもできない過去を抱えて彼もまた生きていた。
 順風満帆に見える彼の人生も、職場を失ったり、恩師の死があったり、父との不和
唯一尊敬する祖父の病と死があったり波乱が続く。そんな中で芽実も順正のもとを
去っていく。
 たくさんのものを失って、順正は約束のフィレンツェのドゥオーモに赴く。
 再会後の気持ちの揺れは順正の側からリアルに描かれる。
 彼はそれまでの思いが、再会によってゼロになってしまうことを恐れる。
 そしてとうとう彼は、電車に乗ってあおいを追いかけるという行動に出るのだった。
私は「Blu」のこの最後を読んで救われた気がした。もし再会後、真実を語り合うこと
なくこの2人の関係が封印されてしまったら、なんとむなしいことだろうか。
 2人の今後の可能性を暗示してこの小説は終わっている。
a0023152_2351169.jpg

 もう一度、若い時代に戻って恋をするとしたら、やはり私は精神的な結びつき
を求めたい。分かり合えても、分かり合えなくても、一緒にいて語り合い続けられる
そういう恋をしたいものだと思う。あおいが順正の存在にそれを求めたように。
 

 
[PR]
by nokogirisou | 2008-10-27 23:10 | 本と図書館
<< ドミトリ・キタエンコ 『大人になるヒント』中沢けい(... >>