『ガン病棟のピーターラビット』中島梓

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 17年前になるだろうか。同じ著者の乳ガン闘病記『アマゾネスのように』
を読んだことを鮮明に覚えている。
 今度は「すい頭一二指腸切除手術」を受けることになった。その闘病記
がこの本だ。ピーターラビットというのは、著者が手術を受けてICUに入っ
ていたときに旦那さんが、クリスマスプレゼントにピーターラビットショップで
買ってきてくれたぬいぐるみのことだそうで、このおかげで著者はだいぶ
和んだという。
 興味深かったのは、入院生活の最大の問題が「退屈」だと書いているところ
だった。体を動かせないときは、できることの選択肢がない。音楽を聴けば
自分でピアノが弾きたくなり、本を読んでもなかなかアタリがない。著者に
とってのアタリはトーマス・マンの『魔の山』と自分の著作だったそうだ。
 それから退屈しのぎはマン・ウォッチングにうつっていく。おじさんが「不機
嫌」だという観察記録は、おもしろかった。
 退院後、元気な人がやってくるとこわいという感覚を持ったというエピソード
も印象に残っている。体が不自由になってみないと分からない感覚というのが
あるのだ。確かに健康だとどうしても具合の悪い人のこと、つらい思いをしてい
る人がいることを忘れがちだ。みんな元気でやる気にみちていると思いこんで
しまう危険がある。
 客観的なような主観的なような、不思議な文体で、なまなましく病気発見
から術後の回復の様子が綴られている。病院について、最新医療について
知るためにはとても参考になる本だ。しかししかし…私にはどうしても著者の
セレブぶりが鼻についてしまうのだった。
 病室は高級な個室。「私は毛皮も宝石も買いません、株もやりませんし
車道楽もありません」と書いておきながら、着物にはお金をつぎこんでいるし
乗っている車も「クラウンのワゴン」と書いてある。ごちそうを食べているし、
どう考えても庶民の生活とかかけはなれているのである。病気になって
つらいことを坦々と受け入れ、客観的に観察している視線には感心するが
それにしても、彼女は恵まれているのである。才能にあふれ、やりたいこと
はなんどもやれており、彼女のファンがありこちにおり、彼女を支える人も
たくさんいる。それに対する意識、感謝というものを持っていたら、また違った
文体と内容になったのではないかと思う。まあ、このふてぶてしさと強引さが
著者の魅力であるかもしれないが。
 
 
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by nokogirisou | 2008-11-07 00:24 | 本と図書館
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