『星々の悲しみ』宮本輝

 「星々の悲しみ」は喫茶店「じゃこう」にかかっていた100号の油絵
のタイトルだ。しかし絵には星のかけらも出てこない。大木のもとで
少年が眠り込んでいる絵だ。さわやかな風のもとで、自転車を脇に
置いて。タイトルの脇に作者が20歳で没したことが書かれていた。
 この油絵がとても象徴的である。「ぼく」はたまたま出会った2人の
医大をめざす予備校生の草間と有吉の協力で、この絵を自分の部屋
に持ってきてしまう。
 し「ぼく」は受験勉強を放擲した浪人生だった。意地になって小説ばか
り読んでいる。読み続けて世界と人生と絶望を蓄積しているかのように。
 草間と有吉の2人との友情は続くが、「ぼく」はますます読書の生活に
浸っていく。それでも小説が語ろうとして語れないものを感じている。
あるときどうしようもなく、星が見たくなって、夜中に近所の和菓子屋の
息子のところに押しかけていって天体望遠鏡で星を見る。「さびしいもん
や」とつぶやくしかない。
 有吉と草間の存在は大きい。男前で優秀だった有吉は病に倒れ死ん
でいく。残された「ぼく」は「星々の悲しみ」の絵を返しに行く決心をする。 
「人間は一瞬のうちに変わっていくのだ」
「自分が、いままさに死にゆかんとしていることを知らないままに死んで
いく人間なんていあにと、ぼくは思う。」
 コーヒーを飲みながらちょっと気まぐれにページをめくっていたら
一気に読んでしまった。読みおわったときに涙が止まらなかった。
私が小説を読んで涙するなんてことはめったにないことだ。この短編
は決してお涙ちょうだい小説ではない。しかし、涙がとまらないのだ。
この小説は学生時代も確か読んだはずだが、いまほどの想いに駆ら
れたかどうか覚えていない。
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by nokogirisou | 2008-11-20 06:03 | 本と図書館
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