村上春樹エルサレム賞受賞スピーチ

  遅ればせながらエルサレム賞受賞の話題である。
新聞やネットでスピーチの一部を読んではいたのだが、週刊朝日で
活字になったスピーチ全文採録を読んで、私は村上春樹を敬愛する
気持ちが一層強くなった。
 「小説家が書き続けることに、ただ一つ正しい理由があるとすれば、
それは個の尊厳を掬い上げ、その生に光をあてることです」
村上春樹の小説家としての姿勢のすべてを表して居る一言だと思う。

 最初から会場を笑わせるユーモアの感覚もとても上質で好感を持っ
た。スピーチの中で私が最も印象的だったのは、卵と壁の比喩ではなく、
昨年亡くなられたお父さんのエピソードだった。
 村上春樹が自分のお父さんのことを公に語るとは意外であった。毎朝
仏壇に祈る父。なぜ祈るのだと尋ねる息子。
 このお父さんは大学院で学んでいたときに徴兵され中国に派遣され
のだという。清水良典も書いていたが、なぜ村上春樹が小説の中で
中国とさきの戦争にこだわるのかわかる気がした。村上春樹は口数
少なかったお父さんから大切なものをしかと受け取ったのだと感じた。

 ショックだったのは「日本で、非常に多くの方々から、エルサレム賞の
授賞式には行くなと助言されました。行くなら著書の不買運動を行う、
との警告を受けました」というくだりだった。ガザ地区が激しい戦闘が
繰り広げられている中で、エルサレムに行くか行かないかを悩むのは
村上氏であって、それについて他の人がとやかく言う筋のことではない
だろう。それなのに、「不買運動を行う」とおどすのはなにか勘違いして
いる。反対したのは一人ではない。スピーチによると多くの人が「行くな」
と言ったという。そういう事実があったこと、それでもなおエルサレムを
訪れることを選んだ村上氏に静かな拍手を贈りたい。
 
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by nokogirisou | 2009-03-01 21:06 | 本と図書館
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